マルハニチロアスベスト被害訴訟

Kさんは1948年10月から1979年11月までマルハニチロの前身会社の一つである大洋漁業(株)の機関員として捕鯨船団やサケ・マス船団の船舶に乗船していました。退職後、故郷の長野県で余生を送っている時、機関員だった時に船舶内で断熱材等に使用されていたアスベストを吸い込んだことが原因でびまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水、石綿肺を発症しました。Kさんの石綿ばく露による呼吸不全状態は経時的に増悪し続けていましたが、2015年9月、懸命の治療にも関わらず呼吸不全が悪化しKさんはお亡くなりになりました。

Kさんの死後、遺族が船員保険の申請を行ったところ、2017年12月1日に職務上疾病として認定されました。

Kさんのアスベスト疾患による死亡の責任は、Kさんが乗船していた船舶を所有していたマルハニチロにあることから、ご遺族がアスベストユニオンに加入し、同社と2018年4月16日に長野市内で団体交渉を行ったところ、マルハニチロは「業務日誌が保存されておらず船舶内でのKさんの状況を知ることができない」という理由で遺族への補償を拒否しました。

アスベストユニオンはすぐさま抗議と争議通告を行い、6月6日にコミュニティ・ユニオン首都圏ネットワークの仲間とともに江東区豊洲フロントにあるマルハニチロ本社に抗議行動を行いました。

Kさんの船員保険申請時にマルハニチロが発行した在籍証明を見ると、同社が少なくともKさんの乗船日や乗船した船舶名の記録を保有し、Kさん乗船当時の船舶内には断熱材等多くのアスベストが使用され、船内で機関等の運転、修理、点検にあたる機関員がアスベストにばく露していたことを認識していることが分かります。マルハニチロのユニオン及び遺族への対応は不誠実なものであると言えます。船舶に乗船して働く機関員がアスベストにさらされる業務であることは広く知られており、アスベスト被害に遭った元乗組員に対する補償制度を作っている日本郵船のような会社もあります。

厚労省の資料を見ると、マルハニチロの前身会社だった大洋漁業と日魯漁業では中皮腫、肺がん、びまん性胸膜肥厚で船員保険の職務上の認定を受けた元乗組員がKさんを合わせて10人いることが分かります。このような状況でもマルハニチロは自社の保有していた船舶に乗船し、アスベスト疾患を発症した乗組員への補償は行っていません。

抗議行動後も状況が変わらなかった為、ご遺族とユニオンは旬報法律事務所の蟹江、早田両弁護士による交渉を依頼しましたが10月、「お話合いによる解決は困難」との会社側弁護士からの回答が届きました。

Kさんの息子さんは、マルハニチロがKさんのことを真剣に考えない姿勢に納得することができず、提訴を決意しました。

同僚機関員からKさんの石綿ばく露状況の聞き取りを行う等の準備を経て、4月16日、東京地裁に3850万円を請求する損害賠償訴訟を提起しました。

マルハニチロは自社のアスベスト被害者達への責任を果たすべきです。

アスベストユニオン執行委員 成田博厚